中川 知美 略歴
1969 大阪府泉大津市に生まれる
2001 大阪芸術大学 芸術学部 美術学科 油画専攻 卒業
現在  大阪芸術大学 芸術学部 美術学科 特任准教授

偶然に生まれるかたちに興味がある。
近ごろはカメラを持ち歩き、
風景の形や色を採集している。
写真が撮りたいわけではない。
粘土や絵の具と同じような、
触覚的な素材を探している。

中川知美さんのしごと

中川知美さんの作品と出会ったのは2012、3年頃だったか正確には覚えていないが京都のギャラリーで拝見している。中川さんの作品は所謂平面の抽象表現で、自由奔放に色彩を使いながらマチエールにもこだわり美しい表面を作っていた。彼女の絵画独特の躍動感はさまざまな素材や筆を含めた道具や身体全体の動きから生まれている。想像だがきっとエスキースなどないと思う。

多少の計算(計画)もあるはずだが基本的には直感的で、画面の上で編まれていく色彩の響き合いは偶然を巻き込んで画面に収まっていくのではないだろうか。絵画全体をつかさどるシステムや秩序は、心地よさはもちろんのこと、さまざまな物語まで想像させる。それはイメージとして焦点を結ぶことなくぼんやりと霞む風景のようでもあり、平面上で奥行きを持った運動のようでもある。まさに視覚的な情緒ある抽象絵画であった。

この辺りまでは多くのファンを魅了する抽象作品を描く絵描きだったが、ここから一歩二歩と次に踏み出す更なる勇気を持っていた。それは、それまでの柔らかな居心地の良い視覚を満足させる絵画から、さまざまな展開を見せていくのである。かすれたフォトイメージや緑青の美しい銅版の断片、絵具が練り込まれた紙粘土やテーブルに置かれるペイントされた硬質粘土の作品など、近年の仕事は実に物質的である。

しかし、中川さんの制作は本質的に絵画の世界にあるように思う。一度絵画を開放して同時に自身を絵画から開放するための試行が続くのではないかと思うのだ。したがってその絵画と自身のやりとりを、そして彼女が答えを出していく過程を、見る側として楽しみにしているのだ。

奥田輝芳(おくだ・きよし)
美術家。1958年滋賀県生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科油画修了。 個展、現代日本美術展、安井賞展、NipponToday(ドイツ)、釜山アートフェア(韓国)など、国内外を問わず数々の展覧会で作品を発表している。

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